B2B企業にとって展示会は、新規顧客との出会いや製品・サービスを直接訴求できる重要なマーケティング手段です。パンデミック以降、展示会業界は急速に復調し、2024年には日本国内でも開催数・来場者数がほぼ2019年の水準に近づきました。一方で来場者の行動や企業のマーケティング手法には大きな変化が起きています。デジタル技術の発展とオンライン施策の台頭により、従来とは異なるアプローチが求められ、**ROI(投資対効果)**を意識した戦略的な出展が不可欠となっています。本ホワイトペーパーでは、現在の展示会を取り巻く状況や課題、主要展示会の動向、最新のマーケティング手法、来場者エンゲージメントの高め方、ROIの測定と改善、そして展示会後のフォローアップ戦略について総合的に解説します。最後に、これらを踏まえた効果的な展示会活用の提言を示します。
目次
展示会出展を取り巻く現状
コロナ後の展示会市場の復調
近年、展示会業界はコロナ禍からの力強い復活を遂げています。世界的には対面の展示会が再び活況を呈し、対面イベントの価値が改めて見直されています。日本国内でも2022年頃から大型展示会の開催数は回復傾向にあり、主要会場である東京ビッグサイトでは2020年に激減した展示会開催数が2023年〜2024年にかけて大幅に増加しました。実際、2019年には日本国内で600件以上の展示会が開催され約750万人が来場しましたが、2020〜2021年はオンライン移行や中止が相次ぎました。その後、行動制限の緩和と共にオフライン展示会が戻り始め、2024年には開催規模が2019年比で8〜9割程度まで回復しています。特にB2B分野では対面での商談ニーズが根強く、企業側も展示会予算の増額や出展再開の動きが顕著です。アメリカをはじめ海外でも2024年に業界規模がコロナ前を上回ったとのデータがあり、展示会産業は沈滞どころか成長軌道に乗っていると言えます。
B2B展示会の存在感とハイブリッド化
展示会の中でもB2B展示会の存在感は非常に大きく、日本展示会協会の調査によれば国内開催の展示会の9割以上が企業間取引(BtoB)を主目的としています。製造業・技術系の展示会を中心に、多くの企業が新製品の発表や取引先拡大の場として出展しており、業界団体主催の専門展から民間主催の総合展まで、多種多様なイベントが年間を通じて開催されています。地理的には首都圏(東京ビッグサイトや幕張メッセ)に開催が集中しつつも、大阪・名古屋・福岡など各地域の産業集積地でも大型展示会が定期開催されています。
また、オンライン展示会やハイブリッド開催の定着も現状の大きな特徴です。コロナ禍で登場したオンライン展示会は、地理的・時間的な制約を超えて情報発信できる手段として企業に浸透しました。実際、ある調査では企業の約75%が過去2年間にオンライン展示会へ出展または検討したとされ、デジタル上で商談や製品デモを行う経験が広まりました。現在では多くのイベントでオンライン配信やオンデマンド動画ライブラリを組み合わせたハイブリッド展示会が採用されています。例えば「スマートファクトリーJapan 2024」では会期前後にオンライン展示期間を設け、物理会場とウェブ双方で情報提供する工夫が行われました。このようにオンラインとオフライン双方の利点を活かす動きが主流になりつつあります。ただし、展示会関係者の間では「対面で実物に触れられる価値は代替できない」という認識も強く、オンライン活用はあくまでリアル展示会を補完・強化する役割として位置付けられているのが現状です。
課題提起:変化する来場者動向とデジタル化、ROI重視の時代
次に、現代の展示会マーケティングが直面する主な課題について整理します。来場者の動向やデジタル化の波、そしてROI重視の経営視点から、従来のやり方を見直す必要性が生じています。
来場者行動の変化と集客のハードル
展示会に訪れる来場者の行動パターンは、この数年で大きく様変わりしています。一つ目の変化は、来場者が事前に豊富な情報収集を行っている点です。インターネット上で製品情報やレビュー、ウェビナー動画などが簡単に入手できるため、展示会場に足を運ぶ段階で既に各社の概要を把握しているケースが増えました。結果として、「わざわざ展示会に行く理由」が来場者側に求められるようになっています。単にパンフレットを配布するだけでは、新規顧客はブースに立ち寄ってくれません。来場する価値を明確に感じさせる仕掛けが必要であり、企業側は事前告知や当日のプレゼン内容を工夫して、来場者の関心を惹きつける必要があります。
また、来場者の属性にも変化が見られます。若手の技術者や次世代の購買担当者が増え、デジタルネイティブな層はインタラクティブで体験価値の高い展示を求める傾向があります。一方、経営層や意思決定者も展示会には訪れますが、時間効率を重視するため事前アポイント制の商談やVIPツアーなど、効率的に情報収集できる場を好む傾向があります。これら多様化した来場者に対応するため、従来以上にターゲット明確化と集客計画が重要となっています。「とりあえず出展すれば人が集まる」時代は終わり、出展企業側が来場してほしいターゲット像を描き、その層に響くメッセージを発信しないと十分な成果に結びつかなくなっているのです。
さらに、コロナ禍以降一時的に対面展示会から離れていた層をどう呼び戻すかも課題です。依然としてオンライン上で情報収集やビジネスマッチングを完結させようとする企業担当者も存在するため、彼らに「現地で直接対話するメリット」を感じてもらう施策が必要でしょう。このように来場者一人ひとりの来場動機や行動が多様化しており、その変化に応じた集客のハードルが生じています。
デジタル化の波とマーケティングチャネルの拡大
二つ目の課題は、デジタル化の波に対応したマーケティング戦略です。展示会以外にもウェビナー、オンラインカンファレンス、SNSマーケティング、コンテンツマーケティングなど、B2B企業が活用できるチャネルは劇的に増えています。従来は展示会が新規リード獲得の主要手段でしたが、今日では検索エンジン経由の問い合わせやSNS経由のコンタクトなど他経路からもリードを獲得できます。このような環境下で、展示会出展の位置づけを明確にし、他のデジタル施策と統合的に展開することが求められます。
またデジタル技術の進展は、展示会そのものの運営や体験にも影響を与えています。例えば、来場者管理にQRコードやRFIDを用いてデータ収集をリアルタイムで行う試みが一般化しつつあります。ブース受付でQRコードをスキャンすれば、その場で名刺情報をデータベース化できるため、従来の紙の名刺管理に比べリード情報を即座に営業チームと共有できます。さらには、AI搭載のカメラでブース周辺の通行量や滞留時間を計測し、どの展示物に関心が集まったかを分析する行動解析も可能となりました。オンライン展示会で当たり前だった詳細なログ分析や効果測定の考え方が、オフラインの展示会にも持ち込まれているのです。デジタル化への対応が遅れると、せっかく出展しても得られるデータが限られ、他のマーケティング活動と連携した効果検証ができません。
さらに情報発信のチャネルとしても、企業の公式サイトやメールだけでなくSNSや動画配信といったデジタルメディアを無視できなくなりました。展示会の内容や見どころを事前にSNSで告知したり、会期中にブースからライブ配信を行ったり、あるいは出展後にフォローアップの動画セミナーを開催したりと、展示会の前後を通じてデジタルチャネルを絡めたコミュニケーションが成果に直結します。このようなマーケティングチャネルが多岐にわたる中、展示会単独では完結しない統合マーケティング戦略を描けるかどうかが問われています。
ROI重視と予算対効果のプレッシャー
三つ目の課題は、ROI(費用対効果)への意識の高まりです。展示会出展には、小間料・ブース施工費・人件費・渡航費・販促物作成費・ノベルティ・広告宣伝費など多額のコストが伴います。経営層やマーケティング責任者は、その投資に見合うリターンをより厳しく求めるようになってきました。コロナ禍を経て予算管理がシビアになる中、「出展して話題にはなったが売上に繋がらない」といった曖昧な結果では社内の理解を得にくくなっています。定量的な成果測定とROIの明確な算出が必須となってきたのです。
しかし実際には、展示会のROI計測に苦戦する企業も少なくありません。**「名刺は大量に集まったが、その後の商談に繋がらない」**という声はよく聞かれます。ある調査では、展示会出展企業の約70%がそのような課題を感じているとの結果もあります。原因の一つは、集めたリードに対するフォロー不足や見込み度の低いリードの大量獲得によるミスマッチです。また、展示会当日に得た成果(例:名刺〇枚、即時受注〇件)だけをもって成否を判断してしまい、中長期的な商談化や受注額まで追えていないケースもあります。投資対効果を正しく測るには、展示会後の商談進捗や受注売上までトラッキングする仕組みが必要ですが、それができていないと展示会の本来の価値が見えなくなってしまいます。
ROI重視のプレッシャーは、出展の可否判断にも影響します。経営陣から「出展費用に見合う成果が本当に出せるのか?」と問われた際に、明確な根拠を示せなければ次回以降の出展見送りにつながる可能性もあります。したがってマーケティング担当者は、展示会の目的を明確化し、KPIを設定し、結果を測定・報告するプロセスを確立しなくてはなりません。例えば「○件の有望リード獲得」「△件の商談創出」「見込売上高○○円」といった指標を事前に定め、社内で合意しておくことが求められます。そして終了後にはそれら指標の達成度を数値で示し、次回改善点と合わせてレポートすることで、社内からの信頼を得て継続出展の承認を得やすくなります。
以上のように、現在の展示会マーケティングは**「来場者の質と量の確保」「デジタル時代に即した手法」「ROIの見える化」**という課題に直面しています。しかしこれらは裏を返せば、適切な戦略と施策によって解決し得るポイントでもあります。次章からは、それら課題を踏まえた上で実際にどのような展示会が開催されているか、そして成功につなげるための最新手法を見ていきます。
主要展示会の概況
製造業を中心としたB2B企業にとって、どの展示会に出展・来場すべきかを見極めることも重要です。ここでは、日本国内およびグローバルで製造業関連企業が注目する主要な展示会10選を紹介します。それぞれの展示会の特徴を把握し、自社のターゲットや目的に合ったイベント選定の参考としてください。
- スマートファクトリーJapan(スマート工場展) – 製造業DX(デジタルトランスフォーメーション)をテーマにした展示会。工場のIoT化やAI活用、製造現場の自動化技術に特化しており、最新のスマート製造ソリューションが一堂に会します。主催は日刊工業新聞社で、毎年秋頃に東京ビッグサイトで開催。製造業の経営層から技術者まで幅広い来場者が集まり、生産性向上や省人化のヒントを求めています。
- ものづくりワールド(東京・大阪・名古屋・九州) – 民間主催(RX Japan社)の日本最大級の製造業総合展のシリーズです。年に数回、地域ごとに開催され、「機械要素技術展(M-Tech)」「設計・製造ソリューション展(DMS)」「加工技術展」など複数の専門展で構成されています。東京開催では毎回1,000社以上が出展し、来場者数も延べ数万人規模にのぼります。機械部品からITソリューションまで網羅するため、製造業に関わるあらゆる企業にとって自社に合う来場者と出会える場です。
- JIMTOF(日本国際工作機械見本市) – 世界有数の規模を誇る工作機械の専門展示会で、偶数年に東京ビッグサイトで開催されます。最新の工作機械や金属加工技術、工具類が国内外のメーカーから出展され、製造業の技術者や経営者が多数来場します。出展社・来場者ともに海外比率が高く、グローバルな商談の場となっているのも特徴です。工作機械業界では最も権威ある展示会であり、新技術のトレンドを知る上でも欠かせません。
- SEMICON Japan(セミコン・ジャパン) – 半導体産業に特化した国際展示会です。毎年12月頃に東京で開催され、半導体製造装置、材料、部品、関連ソフトウェアなどが幅広く出展されます。世界的な半導体業界団体SEMIが主催しており、国内外の半導体メーカー、エレクトロニクス企業のエンジニアやバイヤーが多数集まります。近年は半導体製造だけでなく、自動車やIoT向け半導体の最新技術、また脱炭素に向けた半導体製造の省エネソリューションなども注目されています。
- インターネプコン・ジャパン – エレクトロニクス製造と実装技術の総合展で、基板実装、電子部品、検査装置などエレクトロニクス製造に必要な技術が網羅されています。毎年1月に東京ビッグサイトで開催され、電子機器メーカーの技術者や生産技術担当者が多数訪れます。派生イベントとして関西やその他地域でも開催されており、日本の電子機器製造業にとって重要な商談・情報交換の場です。
- TECHNO-FRONTIER(テクノフロンティア) – メカトロニクス・エレクトロニクス分野の技術展示会です。主に毎年春〜夏に東京で開催され、モーター技術、電源・バッテリー技術、制御技術、熱設計などエレクトロニクス機器の内部技術に焦点を当てた専門展で構成されています。開発エンジニアが多く来場し、各社のブースでは技術相談や仕様打ち合わせなど実務的なコミュニケーションが行われます。製品の基盤技術に関する最新情報を得られる場として、技術者コミュニティで評価の高い展示会です。
- 高機能素材Week – 高機能素材に関する総合展で、先端材料の展示会群です。プラスチック、金属、セラミックス、複合材料、フィルム、塗料・接着剤など、様々な素材産業の展示会が同時開催されます。東京と大阪で年1回ずつ開催され、素材メーカーや加工メーカー、製品開発者が集います。カーボンニュートラルや軽量化ニーズの高まりを背景に、サステナブル素材やリサイクル技術も近年の注目分野です。素材分野の最新トレンドを押さえられる展示会として、化学・素材メーカーのみならず自社製品の材料選定に関わる幅広い業種の来場があります。
- オートモーティブワールド – 自動車技術に関する専門展示会の総称で、EV・電池技術、自動運転、車載システム、コネクテッドカー、加工技術など複数の展示会で構成されています。毎年初旬(1月頃)に東京で開催され、国内最大級の自動車技術展として自動車メーカーや部品サプライヤ、モビリティ関連企業が多数参加します。自動車業界の変革期である現在、EV化やADAS(先進運転支援)、MaaSなど最先端テーマが揃い、自動車エンジニアや研究者にとって情報収集の一大イベントです。関西や名古屋でも派生開催があり、日本の自動車産業クラスターを支える展示会と言えます。
- IIFES(アイフェス) – 旧「計測展」「システムコントロールフェア」が統合した産業オートメーションと計測制御の総合展です。製造現場のFA(ファクトリーオートメーション)技術、IoTソリューション、制御機器、センサー・計測器などが展示され、生産技術部門や設備保全・工場IT担当者が来場します。2年に1度東京ビッグサイトで開催され、日本電気制御機器工業会などが主催する業界色の強い展示会です。スマート工場化やIndustry 4.0が叫ばれる中、最新の自動化ソリューションや制御技術のトレンドを把握できる場として重要です。
- JECA FAIR(電設工業展) – 電気設備に関する日本最大の総合展示会です。ビル・工場向けの電気設備、配線・配電技術、照明、エネルギーマネジメントなどがテーマで、電設資材メーカー、ゼネコン・サブコン(電気工事会社)、建築・設備設計者、自治体関係者などが来場します。毎年初夏に東京ビッグサイトまたはインテックス大阪で持ち回り開催され、約20,000人以上の来場者実績があります。インフラ老朽化対策やスマートビルディング、再生可能エネルギー対応など時代に即したテーマが多く、エネルギー・インフラ業界の動向を知る上で欠かせない展示会です。
以上が製造業関連企業にとってホットな主要展示会の一部です。自社の製品・サービス領域やアプローチしたい顧客層にマッチする展示会を選定することで、より効果的な出展・来場が可能になります。また、各展示会の開催時期や場所、来場者属性を踏まえ、年間の展示会計画を立てることも重要です。例えば、年初のオートモーティブワールドで自動車業界にアプローチし、中盤にものづくりワールドで製造業全般に認知を広げ、秋にスマートファクトリーJapanでDX関連の訴求をする、といったように出展スケジュールを戦略的に組む企業もあります。主要展示会の動向を把握しつつ、自社のマーケティング計画に最適に組み込んでいきましょう。
来場者数と来場者像のトレンド
展示会業界全体の来場者数は前述の通りコロナ禍を経て回復基調にありますが、単に「数」が戻っただけでなく来場者の質や行動にも新たなトレンドが見られます。
来場者数の回復と国際化の進展
まず、来場者数自体のトレンドとして、2023年〜2024年にかけて多くの展示会で来場者数が前年比増加となりました。特に入場制限や渡航制限がなくなったことで、海外からのビジターも戻りつつあります。国際見本市では外国人来場者が目に見えて増加し、英語や中国語で対応するブースも活気を取り戻しています。例えば2024年開催のある産業展では、欧米やアジアからの来場者比率がコロナ前と同程度に回復し、会場内で様々な言語が飛び交う状況が戻ってきました。これは日本企業にとって海外顧客・パートナーとの新たな出会いのチャンスが再び増えていることを意味します。今後2025年にかけて国際会議・展示会の誘致が政府主導でも進む中、展示会はよりグローバルなビジネス交流の場となっていくでしょう。
一方、展示会によって来場者数の回復度合いに差がある点も見逃せません。例えば、新技術分野やDX関連の展示会ではコロナ禍以降も需要が高く、むしろ以前より来場者が増えているケースもあります。その一方で、成熟産業の展示会ではオンライン化の影響を受け来場者が減少傾向のものもあります。全般的には**「最新トレンドを扱う展示会ほど来場者が戻りやすい」**傾向が見られ、各企業も出展イベント選択の際にそうした動向を注視しています。
来場者の質と目的志向の高まり
次に、来場者一人ひとりの質的なトレンドです。現代の展示会来場者は、単なる情報収集以上に具体的な目的志向を持って訪れる傾向が強まっています。事前にオンラインで情報を得られる今、展示会場では「実物を見て比較検討する」「直接質問して詳細を確認する」「その場で交渉や契約の相談をする」といったフェーズの進んだ活動が行われます。特に購買決定権を持つマネージャークラスや事業責任者が来場する場合、自社課題を解決する具体的ソリューションを探していることが多く、ブース担当者との会話も初歩的な説明より突っ込んだ相談になることが増えています。裏を返せば、出展企業側は高度な質問に答えられる技術者や意思決定者をブースに配置しておかなければ、折角の商談チャンスを逃してしまう可能性があります。「濃い」来場者が増えているからこそ、出展側も専門知識と意思決定権を備えたスタッフを投入することが重要になっています。
また、若い来場者層は展示会での体験そのものをSNS等で発信する動きも顕著です。展示会場で興味深い展示やデモを見つけると、その写真や動画をその場で撮ってTwitterやLinkedInに投稿する、といった具合です。企業にとっては、来場者が思わず共有したくなるようなフォトジェニックでインパクトのある展示を用意することで、来場者自身が宣伝役となり情報拡散してくれる効果も期待できます。実際、アート系の体験型展示で有名なチームラボのように、「映える」ブース演出がSNSで話題となり、結果として展示会後にさらに問い合わせが増えるというケースも出てきています。B2Bの展示会においても、来場者がプロフェッショナルな情報収集と同時に楽しさや感動も求める傾向があり、これまで以上に来場者エクスペリエンス全体を設計する視点が必要です。
さらに、来場者の関心テーマも多岐化しています。以前はその展示会の主題に沿った情報だけが求められていましたが、現在では隣接分野や業界横断的なソリューションにも目を向ける来場者が増えています。例えば製造業の担当者がDX展示会に赴いてITソリューションを探したり、建設業の方が環境技術展で脱炭素のヒントを得ようとするなど、一人の来場者が複数領域の情報を求めるケースもあります。これは展示会主催者側も認識しており、異なる展示会同士を同時開催して相互に行き来できるようにする工夫も見られます。来場者像が多面的になる中、出展企業としても自社コア分野だけでなく関連領域への訴求メッセージを準備しておくことで、思わぬリード獲得につながる可能性があります。
要約すると、展示会の来場者数は量的に回復しつつ質的にも進化しています。目的意識が高く、SNS等で情報発信力も備えたプロフェッショナルな来場者にいかにリーチし、満足いく体験を提供するかが、今後の展示会マーケティング成功のカギとなるでしょう。
最新マーケティング手法:デジタル技術・SNS活用・ブースデザインの革新
前章までで触れた課題やトレンドに対応すべく、展示会マーケティングの手法も進化しています。ここでは**(1)デジタル技術の活用**, (2)SNS活用による集客・拡散, (3)ブースデザインと演出の革新という3つの観点から最新の手法を解説します。
デジタル技術の活用による展示効果の最大化
デジタル技術を駆使することで、展示会での訴求力と効果測定の双方を強化できます。具体的には以下のような手法があります。
- AR/VRやシミュレーションの導入: 製品や設備をその場で実物展示できない場合でも、タブレットやVRゴーグルを使って仮想的に体験できるようにする企業が増えています。例えば巨大な機械設備の内部構造をVRで探索させたり、自動車の完成イメージをARで目の前に表示したりと、バーチャル技術で没入型のデモを提供できます。これにより来場者はカタログ写真だけでは分からないスケール感や操作感を体験でき、理解促進と記憶定着につながります。
- インタラクティブなデジタルコンテンツ: ブースに大型タッチパネルやプロジェクションディスプレイを設置し、来場者自身が操作しながら学べるコンテンツを用意する例も見られます。製品選定のシミュレーション、設計ソフトのデモ版操作、クイズ形式の製品紹介など、双方向性のあるコンテンツは来場者の関与を高めます。またデジタルサイネージでリアルタイムにSNS投稿や来場者数カウンターを映し出し、ブースの盛り上がりを演出する試みもあります。
- リード取得と情報提供の自動化: デジタル技術により、ブース内でのリード情報取得と資料提供をスムーズに行えます。例として、来場者が自身の名刺QRコードをスキャンすると、その場でパンフレットのPDFをメール送付したり、後日動画リンクを提供したりするシステムがあります。これにより紙の資料を大量配布する必要が減り、かつ誰が何に興味を持ったかのデータを蓄積できます。またチャットボットをブース端末や展示会公式アプリ上で稼働させ、簡単な質問は自動応答することでスタッフ対応を補完する事例も出始めています。
- 分析ツール・センサーの活用: 前述の通り、ブースへの来場者数や滞在時間を計測するカメラセンサーや、展示物ごとの接触回数をカウントするIoTデバイスなど、可視化ツールの導入が注目されています。例えばブース入口と出口に人感センサーを置いて通過人数を計測したり、各展示にビーコンをつけて人が近づくとカウントする仕組みを取り入れたりすることで、「どの時間帯に訪問が多かったか」「どの製品に関心が集まったか」をデータで把握できます。これらのデータは展示会後の振り返りに有用で、次回どの展示に注力すべきか、配置レイアウトは適切だったか等の判断材料になります。
このようにデジタル技術を積極活用することで、来場者にとって分かりやすく魅力的なプレゼンが可能になると同時に、出展企業側は詳細なエンゲージメントデータを得てROI分析や次回改善につなげられます。導入コストとの兼ね合いはありますが、近年はタブレットや大型ディスプレイのレンタルも安価になっており、中小規模のブースでも十分実践可能です。
SNSとオンライン施策の連携による集客力強化
SNS(ソーシャルメディア)の活用は、展示会マーケティングの各段階で欠かせないものとなりました。具体的には展示会の事前・会期中・事後のそれぞれでSNSを活用する戦略が有効です。
- 展示会前のSNS告知・リーチ拡大: 展示会の成功は会期前の準備で8割決まるとも言われます。出展企業は開催の数ヶ月前から、自社の公式SNSアカウント(LinkedIn, Twitter, Facebookなど)で計画的に情報発信を行います。ただ「○月○日に△展に出展します」というお知らせだけではなく、ターゲット顧客の関心に刺さるコンテンツを織り交ぜることが重要です。例えば「当社ブースで業界最新トレンド○○に関するセミナーを開催!」「現場のお悩み解決Tips連載(展示会で詳しく紹介)」など、来場のメリットを具体的に感じられる投稿を行います。また、関連する業界ニュースや課題に触れつつ自社ソリューションをさりげなく紹介する記事を発信し、専門知識を持つフォロワー層にリーチすることで展示会への期待感を高めます。ハッシュタグも効果的に使い、展示会公式ハッシュタグと自社独自のキーワードを組み合わせて投稿することで、検索経由でも情報を見つけてもらいやすくします。こうした事前SNS施策に注力した企業は、当日のブースにSNSを見て訪れた新規顧客が増える傾向があり、従来接点のなかった層への訴求に成功しています。
- 展示会会期中のリアルタイム発信: 会期中もSNSは活用できます。例えばブースでのデモンストレーションやプレゼンテーションの様子を短い動画クリップや写真で撮影し、その日のうちにSNS投稿します。「本日の弊社ブースは大盛況です!新製品○○に皆さん興味津々」「会場で○○を発表しました」など、臨場感ある投稿は会場に来ていない潜在顧客にも情報が届き、「やはり行ってみようかな」と二日目以降の来場を促す効果も期待できます。また他の出展企業や来場者の投稿をリツイート・シェアすることで、業界内での存在感を示すこともできます。自社スタッフがSNS上で質問対応したり、来場者の投稿にお礼コメントをするなど、双方向のコミュニケーションを図ることで企業の親近感や信頼感も高まります。最近では展示会によってはSNSへの投稿キャンペーン(特定ハッシュタグを付けて投稿すると記念品がもらえる等)を実施するところもあり、こうした企画に乗ることでブースへの人だかりを作るなどの効果も得られます。
- 展示会後のフォローアップへのSNS活用: 後述するフォロー戦略とも関わりますが、SNSは展示会終了後の見込み顧客育成にも役立ちます。例えば展示会で名刺交換した相手にLinkedInで繋がりメッセージを送る、展示会のお礼と発表資料を掲載した記事をSNSにアップして周知する、といった使い方です。特にLinkedInはBtoB領域で有効で、商談につながる投稿プラットフォームとして定着しつつあります。また自社のSNSでセミナーやWebinar開催告知を行えば、展示会で接点を持った見込み客が再び関心を寄せ、継続的な関係構築が可能になります。SNS運用を外部に委託している場合は、展示会フォローコンテンツの制作・発信を依頼するケースもあります。実際、ある企業では展示会後に専門のSNSチームが出展製品に関するQ&A投稿や活用事例コンテンツを週次で発信し続けた結果、展示会経由リードの商談化率が3倍に向上したとの報告もあります。こうした例からも、展示会後もSNSで継続して有益な情報提供と接点維持を図ることが、リード育成の観点で極めて重要だと分かります。
以上のようにSNS活用はもはやオプションではなく、展示会マーケティングの基本施策となりました。自社内にノウハウがない場合は専門の代行サービスに委託する手も含めて検討し、オンラインとオフラインをシームレスにつなぐコミュニケーション戦略を立てることが必要です。
ブースデザインと演出の最新トレンド
展示会で来場者の目を引き、記憶に残るためにはブースのデザイン・演出も極めて重要です。単に派手にすれば良いというものではなく、企業メッセージを効果的に伝え、来場者が「立ち寄ってみたい」「話を聞いてみたい」と感じる工夫が求められます。近年のブースデザインにおける主なトレンドを紹介します。
- オープンで入りやすいレイアウト: 昔ながらのブースでは入口にカウンターを置き内部に商談スペースを構える閉鎖的な設計も見られましたが、最近は開放感を重視したレイアウトが増えています。通路側を大きく開け放ち、どの方向からでも展示内容が視界に入りやすい設計にすることで、来場者が気軽に足を踏み入れやすくなります。また動線計画も重視され、立ち止まって見やすい位置に主力製品を配置し、自然な流れでスタッフが声を掛けられる導線を意識して設計されています。
- アイキャッチとなる大型ビジュアルや映像: 遠目からでも目立つ高い位置に社名看板を掲げたり、大型スクリーンでループ映像を流したりして、歩いている人の注意を引き付ける手法は引き続き有効です。特に動画は静止画に比べ注目率が高く、製品のビフォーアフターや導入事例などを短いクリップにして映写することで、足を止めるきっかけになります。実物展示が難しい場合も、工場での稼働シーン動画や3DCGアニメーションを映すことで補完できます。重要なのは、ビジュアルが単に派手なだけでなく伝えたいメッセージが一瞬で理解できることです。例えば「作業時間50%短縮!」と大きく映し出せば、何に関する製品か分からなくても「効率化ソリューションかな」と興味を持ってもらえるでしょう。デザイン性とメッセージ性を両立させたビジュアル設計が求められます。
- 没入型・体験型の演出: 近年注目されるキーワードに「イマーシブ(没入型)体験」があります。ブース内にミニシアターのような空間を作り、音響や照明を駆使してドラマチックに製品ストーリーを伝える演出や、ARゴーグルを着けて実際に機械操作をシミュレーションできるコーナーなど、来場者が参加者として深く関与できる体験を提供する企業が増えています。五感に訴える演出も有効で、香りや触感を取り入れたり、製品素材に実際に触れてもらったりすることで記憶に残る体験となります。たとえば空調設備メーカーが極寒室と炎天下室をブース内に用意し、自社空調の快適さを体感させる、といった大胆な試みもあります。没入型演出は話題性もあるためSNS拡散も期待でき、ブース来訪をイベント的に楽しんでもらうことで企業イメージ向上にもつながります。
- サステナブルブースデザイン: 企業のCSRやSDGsへの取り組みが重視される中、環境に配慮したブースもトレンドになっています。具体的には、再利用可能な資材でブースを製作し、解体後は他用途にリサイクルする設計が注目されています。ある事例では、ブースの壁材や展示台に自社工場で出た廃材やリサイクル素材を活用し、展示会後にそれらを回収して家具部品へ再加工したところ、高い評価を得ました。また、紙の配布物を減らし電子カタログやQRコード掲示に切り替えることもエコロジーの観点からPRになります。脱炭素・循環型社会への貢献をブースデザインで表現することは、来場者に対する企業姿勢のアピールにもなりますし、同時に廃棄物処理費の削減などコスト面のメリットも生まれます。サステナブルな展示会運営は今後ますます重視されるでしょう。
- ゾーニングと回遊性の工夫: ブース内をいくつかのゾーンに分けて、来場者の関心に合わせて回遊しやすくするレイアウトも有効です。例えば「製品展示エリア」「デモンストレーションエリア」「相談カウンター」など明確に分けて案内表示を出すことで、今自分が何を見ればか迷わせません。また奥に進むほど専門的な情報が得られるよう段階的に展示を配置し、興味の深まりに応じて自然に滞在時間を延ばす工夫もあります。大規模ブースではミニセミナー会場を併設し定期的にプレゼンイベントを開催して、人を集めつつ回遊させる方法もよく使われます。いずれも、来場者視点でブース内をデザインし「立ち寄ったは良いが何を見れば…」と戸惑わせないことがポイントです。
これら最新のブースデザイン・演出のトレンドを踏まえ、自社のブランドイメージや訴求内容に合ったアイデアを取り入れることで、来場者の記憶に残り深いエンゲージメントを実現できるでしょう。デザイン設計段階ではプロの展示会デザイナーや施工会社の知見を活用し、単なる装飾ではなくマーケティング施策としてのブース演出を追求することが成功の鍵となります。
来場者エンゲージメントの向上策
展示会で成果を出すには、ブースに来てくれた来場者一人ひとりとのエンゲージメントをいかに高めるかが重要です。単に名刺を集めるだけではなく、来場者に有意義な対話や体験を提供し、自社への関心度を高めてもらう工夫が求められます。以下に、来場者エンゲージメントを向上させる具体的なポイントをまとめます。
- 積極的な呼び込みとアイスブレイク: ブース前を通る来場者にはタイミングよく声をかけ、興味を引く一言で足を止めてもらいましょう。「〇〇に課題はありませんか?解決策をご紹介しています」といった問いかけや、ノベルティ配布をきっかけに話しかけるなどして、最初のハードルを下げる工夫が大切です。立ち止まった方にはまずパンフレットよりも実物やデモ画面を見せながら簡潔に特徴を伝え、会話に引き込むと効果的です。
- 明確で魅力的なプレゼンテーション: ブース内でプレゼンテーションを行う場合は、専門用語だらけの説明にならないよう注意し、問題提起と解決策を端的に示すことを心がけます。来場者は他ブースも回って情報過多になりがちですので、「3つのポイントです」と構成を示したり、デモ映像を交えて視覚的に理解させたりすると記憶に残りやすくなります。話し手のトーンや聞きやすさも重要なので、事前にプレゼン練習を行い本番では自信を持って話せるよう準備しましょう。
- ロール分担されたスタッフ対応: 限られたブース人員で効率よく対応するため、スタッフに役割分担を設けます。例として、通路沿いで呼び込みとヒアリングを担当する「アテンド係」、詳しい技術説明やデモ実施を担当する「エンジニア係」、名刺交換とリード情報記録を担当する「受付係」などです。あらかじめ誰がどの役を担うか決めておけば、混雑時にも対応漏れが減り、スムーズに多くの来場者と接点を持てます。特に見込み度の高い相手ほど素早くエンジニアや営業に引き継いで深掘りした会話に移行することが重要です。
- 双方向コミュニケーションと傾聴: エンゲージメントを高めるには、一方的な売り込みではなく双方向の会話にすることが肝心です。来場者の課題や興味を尋ね、それに合った情報を提供する形で会話を進めましょう。「御社ではどんなお困りごとがありますか?」など質問を投げかけると、相手のニーズが引き出せます。また話を聞く姿勢も大切で、相槌やメモを取りながら熱心に耳を傾けることで、来場者は「自分のことを理解してくれてようとしている」と感じ、信頼関係の芽が生まれます。この傾聴姿勢は他社との差別化にもなり、結果として「まず詳しく話を聞いてくれた○○社に依頼したい」と思ってもらえることもあります。
- インタラクティブな体験提供: 前述したデジタル技術の活用とも関連しますが、来場者自身が手や体を動かして参加できる要素を取り入れることでエンゲージメントは飛躍的に向上します。製品の簡易操作を実際に体験してもらったり、ミニゲーム形式で製品知識を深める企画(例:「クイズに答えて○○ゲット」)を用意したり、アンケートに答えるとその場で結果が表示され比較できる仕掛けなど、能動的に関与できる場面を作りましょう。人は自ら関わった事柄に愛着を持つ傾向があり、そうした体験をした来場者は後日まで印象に残りやすくなります。
- 商談・相談のしやすい環境整備: 興味を持った来場者とはじっくり話ができるよう、ブース内に簡易な相談スペースや立ち話用のテーブルを用意しておくのも有効です。周囲の雑音を少し遮るパーティションや、資料を書き込める台があるだけで、会話の深度が増します。椅子まではなくとも「ここで詳しい資料をご覧いただけます」と案内できるスペースがあると、立て込んだときにも他の来場者を待たせず対応できます。またコーヒーやペットボトル水など飲み物を勧めることでリラックスした雰囲気を作り、腰を据えて話せる空気づくりも大切です。
- 名刺情報の確実な記録と即時メモ: エンゲージメント高く会話できても、その内容を後で活かせなければ意味が半減します。そこで名刺交換した際には裏面に要件メモをとる、もしくはデジタルでスキャン登録する際に興味領域などタグ付けしておくなど、リアルタイムに情報を残す仕掛けを徹底しましょう。特に有望な見込み客については「〇〇に課題、来月予算化」「競合X社製品使用中」など具体的な会話内容を控えておくことで、後日のフォローが格段にやりやすくなります。展示会現場では次々と新しい対応が発生し記憶も薄れがちなので、その場で記録する癖付けが重要です。
以上のような工夫を施すことで、ブースに訪れた方とのエンゲージメント=心の繋がりを強くし、単なる名刺交換相手ではなく「顔とニーズが分かるリード」に昇華させることができます。最終的にどれだけ商談・受注につながるかは、こうした現場対応の質に大きく左右されます。展示会前にロールプレイングやシナリオ共有を行い、チーム全員でエンゲージメント向上策を実践できるよう準備して臨みましょう。
ROIと効果測定の重要性と方法
展示会出展におけるROI(Return on Investment)の最大化は、マーケティング投資の健全性を保つ上で欠かせません。ここでは、効果測定の指標とROI改善のための施策について整理します。
展示会ROIを測るKPIと算出の基本
ROIの基本式は「(獲得した利益 – 投資コスト) ÷ 投資コスト × 100%」で表されます。展示会の場合、投資コストにはブース費用、装飾費、人件費(出張旅費含む)、パンフレットやノベルティ制作費、宣伝広告費などが含まれます。一方、短期的な利益としては展示会で直接受注した売上が考えられますが、B2Bでは商談から受注まで数ヶ月~数年を要することも多いため、成果を測る指標(KPI)を適切に設定する必要があります。
一般的に展示会のKPIとして用いられるのは次のような指標です。
- 名刺交換件数・リード件数: 最も基本的な量的指標です。何件の新規見込み顧客(リード)情報を獲得できたか。過去実績や目標と比較して評価します。
- 商談設定件数: 展示会後にアポイントやデモ依頼など具体的な商談につながった件数です。名刺交換数に対する割合(歩留まり)も重要です。
- 受注件数・受注金額: 展示会由来で最終的に受注に至った案件数や金額です。展示会終了直後だけでなく半年~一年スパンでフォローし、この数字を追います。
- 来場者数(ブース来訪者数): ブースに立ち寄った人数も効果測定の一つです。名刺交換に至らなくとも簡単な接触があった人数をカウントし、自社ブースの集客力を評価します。
- 資料請求・後日問い合わせ数: 展示会後にメールやウェブから追加資料請求があった件数もKPIとなります。興味を継続喚起できた証左です。
- SNSでの言及・メディア露出: 定量化しにくいですが、展示会出展によってSNS上で会社名や製品名がどれだけ言及されたか、業界メディアに取り上げられたかといった露出効果も指標に含めることがあります。
これらKPIを事前に設定し、目標値を決めておくことで、展示会後に成功度合いを客観的に評価できます。重要なのは短期指標(リード数等)と中長期指標(受注額等)を組み合わせて評価する視点です。展示会直後はリード獲得数で一旦ROIを算出し、フォロー期間終了後には実受注ベースでもう一度ROIを計算するといった二段階評価も有効です。例えば「開催3ヶ月後までに受注〇件・受注率××%」などマイルストーンを設定し追跡することで、展示会投資の真のリターンが見えてきます。
効果測定とデータ分析の実践
ROI向上には、効果測定のプロセスを確立することが欠かせません。展示会終了後、以下のようなステップでデータを収集・分析しましょう。
- リード情報の整理・一元管理: 展示会で集めた名刺やリストをすみやかにデジタル化し、社内のCRMや営業管理システムに登録します。氏名・会社名だけでなく、興味を示した製品や会話内容のメモも含めてデータベース化することで、後の分析やフォローに役立ちます。複数メンバーでエクセルを共有するだけでは漏れや重複が起こりがちなので、できれば専用のCRMツールを使い、全リード情報を一元管理する仕組みを用意します。
- KPI実績の集計: 上述のKPI指標について、展示会終了直後に数値を集計します。名刺交換総数、うち有望と判断した件数、会期中にその場でアポイント設定できた件数等を算出し、目標値と比較します。またブース来訪者数はセンサー計測データや名刺数からの推定で出します。さらに、配布したパンフレットやノベルティの数、SNS投稿件数なども補助的に集めると良いでしょう。実績数値を一覧化することで、関係者全員で今回の成果を共有できます。
- 質的なフィードバックの収集: 定量データに加え、現場スタッフからのヒアリングやアンケート結果など質的な情報も集めます。来場者からどんな質問が多かったか、競合ブースの様子はどうだったか、用意したデモへの反応は良好だったか等を、担当者ごとに報告してもらいます。来場者アンケートを実施していた場合はその結果(満足度、興味分野、改善要望など)も分析に加えます。これにより、数字には表れない成功要因・失敗要因が浮き彫りになります。
- ROIの算出と分析: 投資コスト総額と上記の成果データを用いて、仮のROIを算出します。例えば展示会関連コストが200万円、見込み受注額が1,000万円であればROIは(1000-200)/200=400%となります。ただし見込み受注額はあくまで商談中案件の合計など不確定要素もあるため、シナリオ別のROI(楽観・悲観シナリオそれぞれでのROIなど)を計算してみることも有益です。合わせて、効果測定した各施策の費用対効果分析も行います。例えば、事前SNS広告に20万円投下してリード50件獲得→一件あたり4,000円、展示会当日ノベルティに10万円で来場者100人誘引→一人1,000円、といった具合に、施策別にコスト効率を評価してみます。これを比較すると、どの活動が特に成果につながったか、逆に効率が悪かったかが見えてきます。
- 結果の共有と改善案の抽出: 分析結果はチーム内や経営陣に報告し、次回への改善点をディスカッションします。例えば「想定より名刺数が少なかったのはターゲットイベントの選定に課題があったのでは」「商談設定率が高かったのはプレゼン資料が功を奏したのでは」など、数字と現場感覚を突き合わせて成功要因・失敗要因を明確化します。その上で、「次回はターゲット業種を絞り込もう」「スタッフ増員し対応漏れを防ごう」「配布資料を改善しよう」など具体的な改善施策を立案します。これらをドキュメントにまとめ関係者と共有することで、社内ナレッジとして蓄積され、回を重ねるごとに出展効果が高まっていきます。
ROIと効果測定は地道な作業ですが、これを怠ると展示会が単発イベントで終わり投資対効果が不明瞭なままとなってしまいます。逆にしっかり検証・改善を回せば、展示会は企業の成長戦略に直結する強力な武器となります。人・物・金を投じた以上、その成果を科学的に捉え次に繋げることが、マーケティング担当者に求められる責務と言えるでしょう。
展示会後のフォロー戦略
展示会で多くの見込み顧客リードを獲得できたとしても、その後のフォローが不十分では商談・受注にはつながりません。むしろ展示会終了後からが本当の営業活動のスタートと言えます。ここでは、展示会後の効果的なフォローアップ戦略について具体策を示します。
フォローの重要性とタイミング
展示会後のフォローアップは迅速さが命です。熱量が高いうちに接触することで、競合他社に先んじてアプローチできます。理想的には終了後1週間以内に何らかのコンタクトを取るべきでしょう。まずは来場のお礼を伝えるメールを送り、あわせて当日話題に上った製品カタログや提案資料のPDFリンクを添付すると効果的です。ポイントは来場者ごとに内容を少し変えることで、画一的な一斉メールにならないようにすることです。例えば、展示会で特定製品に関心を示していた相手にはその詳細資料を、多数の製品を俯瞰していた相手には総合カタログを送るなど、相手の興味に即した情報提供を行います。このようなパーソナライズによって、「自社のニーズを理解してくれている」と感じてもらえ、フォローメールの開封率・反応率が上がります。
リードの温度感に応じたアプローチ
全てのリードが同じ熱意を持っているわけではありません。そこで、展示会で収集したリードを温度感(関心度・緊急度)に応じて分類し、適切なフォロー方法を設計します。例えば以下のようなセグメント分けが考えられます。
- 「今すぐ検討」層: 展示会時点で具体的な導入ニーズや課題があり、近々プロジェクトが動きそうな顧客。→早急に営業が訪問やオンライン商談を提案し、具体的な提案・見積もりフェーズに進めます。
- 「比較検討中」層: ニーズはあるが導入時期や選定先を検討中の顧客。→ケーススタディ資料や詳細な技術情報を提供しつつ、競合との差別化ポイントをアピール。数週間〜数ヶ月スパンで定期フォロー。
- 「情報収集」層: 今すぐの案件ではないが将来的可能性のある顧客。→自社ニュースレターや業界トレンド情報を定期配信するなど、長期的に関係構築。すぐに商談提案はせず信頼関係を醸成。
このように優先度付けすることで、リソースを効率的に配分できます。特にホットな見込み客には展示会終了直後の迅速な初回連絡が重要です。「先日の展示会ではありがとうございました。ぜひ詳しいお話を伺いたく、○月○週に御社訪問かオンライン面談のお時間をいただけませんか?」といった丁寧かつスピーディなアプローチが、顧客の関心を維持し競合に先を越されないポイントです。遅くとも2週間以内には初回コンタクトするよう心がけましょう。
マーケティングコンテンツを活用した継続接点
フォローアップは単発の連絡で終わらせず、中長期的なコミュニケーション計画を立てることが理想です。展示会後に初回アプローチした後も、契約に至るまでには複数回の接点が必要になる場合が多いため、様々なコンテンツや手段を駆使して関係を深めます。具体的な方法としては:
- 定期メールマガジンやニュースレター: 展示会来場者をリスト化し、月次や季刊で有益な情報を届けます。新製品情報、業界の最新動向、成功事例紹介、技術解説記事など、相手にとって価値あるコンテンツを提供し続けることで自社を想起してもらう機会を作ります。
- ウェビナーやセミナー案内: 展示会で接点を持った層向けにオンラインセミナーや少人数勉強会を開催し案内するのも有効です。例えば「展示会で関心の高かったテーマについて深掘りするウェビナー」などを企画すれば、参加を通じてさらにリードのニーズをヒアリングできます。セミナー参加者は関心度が高い証拠なので、その後の商談化も期待できます。
- 事例紹介や導入シミュレーションの個別提案: 特定の有望リードには、その企業の状況に近い導入事例やROI試算を含むミニ提案書を作成し提供するのも効果的です。「御社の場合、このような効果が見込めます」という具体像を示すことで、購買を前向きに検討してもらいやすくなります。これは営業フォローの範疇ですが、マーケティングと連携してケーススタディ資料を準備しておくとスムーズに動けます。
こうしたコンテンツ活用により、リードとの継続的な接点維持が図れます。ただしコンテンツを送りつけるだけでなく、反応をしっかりトラッキングし、興味度の変化を見逃さないことも重要です。メール開封やリンククリックの有無、セミナー参加の有無などをマーケティングオートメーション(MA)ツールで追跡できれば、関心が高まったタイミングで営業アプローチを再開するといった機動的対応が可能になります。
営業チームとの連携とフォロー管理
展示会フォローはマーケティング部門だけでなく、実際に商談を進める営業部隊との連携が不可欠です。展示会終了後すぐに営業・マーケ合同でのリード引き継ぎミーティングを開催し、主要リードの情報を共有しましょう。各リードの温度感や興味事項、担当アサインを決め、いつ誰が何をするかまで決定します。営業担当がすでに関係を持っている既存顧客が含まれている場合は、その担当者が引き続きフォローする形とし、新規顧客については地域や業種で担当振り分けを行います。
その後のフォロー状況も定期的に更新共有することが大切です。例えば1ヶ月後にフォロー進捗会議を開き、「◯社はすでに提案書提出済み」「△社は現在ヒアリング中」など状況を確認します。マーケティングが支援できること(追加資料作成やイベント案内等)があれば提供し、営業からのフィードバックを次回展示会に活かすというサイクルも回せます。
フォローの管理には、CRM上で商談ステータスを管理する方法が一般的です。「見込み」「アプローチ中」「提案中」「受注」「失注」などフェーズを設定し、展示会由来案件がどう進捗しているか一目で把握できるようにします。これにより、展示会から〇ヶ月後時点での商談化率・受注率といったKPIも自動で計測できます。数字で管理することでフォロー漏れも防ぎやすくなります。
最後に、展示会フォローの総括も忘れず行いましょう。半年〜1年ほど経過した時点で、その展示会由来で最終的に何件受注できたのか、売上はいくらかを集計し、ROIの最終評価をします。同時に、フォロー過程で得た学び(例えば「◯業界のリードは案件化に時間がかかる」「×の資料が決め手になった」など)を振り返り、次回以降の展示会戦略に反映させます。フォローの成功・失敗までセットで検証してこそ、展示会マーケティングは完結します。
まとめ・提言
以上、B2B展示会の2025年最新動向と成功のポイントを総括してきました。リアル展示会の価値復権、デジタル活用による変革、ROI志向の強まりという大きな潮流の中で、企業は従来以上に戦略的かつ統合的な展示会活用が求められています。
最後に、本稿の内容を踏まえ、展示会マーケティングを成功に導くための重要な提言を箇条書きします。
- 出展目的とターゲットの明確化: 漠然と出展するのではなく、「新規リード〇〇件獲得」「〇業界での認知度向上」など具体的な目的を設定し、狙うターゲット層を明確化しましょう。目的に沿った展示会選びとKPI設定がROI向上の第一歩です。
- デジタルと融合した集客戦略: 事前のWeb・SNS告知、オンライン広告、展示会公式サイトでの出展社情報活用など、デジタルチャネルを駆使して来場を促進しましょう。会期中もSNSで情報発信し、会場外の潜在顧客にもリーチすることが重要です。
- 来場者視点のブース企画: ブース設計は「来場者が何を求めているか」を起点に考え、分かりやすい展示・デモと話しかけやすい雰囲気作りを心がけます。インタラクティブな体験や没入型演出を取り入れ、来場者の印象に残る仕掛けを用意しましょう。
- 徹底したエンゲージメントと情報収集: ブースではスタッフ全員がホスピタリティとプロ意識を持って対応し、来場者との対話からニーズや課題を聞き出します。一人ひとりとの出会いを大切にしつつ、その内容を逃さず記録して後工程に繋げましょう。
- ROIを意識した計測と改善: 費用対効果を常に念頭に置き、KPIの達成度を測定して分析します。良かった点・悪かった点を見える化し、次回の展示会計画に反映させます。継続的なPDCAサイクルにより、出展効果は回を追うごとに高まっていきます。
- 迅速かつ丁寧なフォローアップ: 展示会終了がゴールではなくスタートです。獲得したリードにはスピード感を持ってアプローチし、長期的な関係を築きましょう。興味度に応じた情報提供や提案を行い、商談・受注への橋渡しを確実にします。
- 組織横断のチーム連携: 展示会はマーケティング部門だけでなく営業・技術・経営層まで巻き込んだ総合プロジェクトです。社内で目標を共有し、部門間の連携体制を構築することで成果は倍増します。とくに営業との連携を密にし、リードを組織的に育成しましょう。
- 専門パートナーの活用: 自社リソースだけで対応が難しい場合は、展示会支援のプロフェッショナル企業に相談することも検討してください。経験豊富なパートナーであれば、ブース設営のデザイン・施工から集客プランニング、当日の運営サポート、さらには広告連動施策や獲得リードのナーチャリングまで一貫した支援が可能です。外部の知見を活用することで、自社では思いつかない斬新なアイデアや確度の高い戦略を取り入れることができます。
以上の提言を実践することで、展示会出展は単なるイベント参加ではなく、企業成長のエンジンとなるでしょう。かつては「展示会に出ればとりあえず効果がある」と言われた時代から、「展示会をいかに使い倒すか」が問われる時代へと移行しています。本ホワイトペーパーで取り上げた知見を踏まえ、ぜひ自社の展示会マーケティングをアップデートしていただければ幸いです。戦略的な計画と創意工夫によって、B2B展示会は2025年以降も皆様のビジネスにもたらす価値を一層高めていくことでしょう。
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